新しい中小企業政策の動向

序論

我が国の中小企業にとって、人手不足はもはや一時的な現象ではなく、構造的な課題となっている。少子高齢化による労働人口の減少は今後も続き、総務省の労働力調査によれば、生産年齢人口は2040年にかけて、さらに大幅な縮小が見込まれている。

大企業は賃金水準や福利厚生の充実によって人材を確保できる一方、中小企業は採用力や知名度で劣り、優秀な人材を採りにくい状況に置かれている。

こうした背景から、中小企業は「人材をいかに獲得するか」だけでなく、「限られた人材をいかに有効に活用するか」という発想の転換が不可欠である。

本論文では、中小企業の実態を踏まえ、人材活用の観点から人手不足を克服するための方策を整理する。特に、私自身がSEとして10年以上にわたりデータベースの構築や管理、システム導入を手掛けた経験を活かし、デジタル化を通じた人材活用についても具体的に提言する。

1. 中小企業における人材活用の現状と課題

1.1 多様な人材の活用不足

中小企業では、採用ターゲットが新卒や正社員に偏り、シニア人材や女性、外国人、障害者といった多様な人材の受け入れ体制が十分ではない。例えば、子育てや介護と両立するための短時間勤務や職務限定制度が整備されておらず、リモートワーク制度も導入されていないことが多い。結果として、子育て中の女性や定年後も働く意欲やスキルがあるシニア人材など、潜在的な労働力を活かしきれていない。

また、多様な人材を受け入れるには制度整備だけでなく、社内の意識改革も欠かせない。例えば、子育て中の女性を採用しても、周囲が理解を欠けば定着には至らない。外国人材についても、文化の違いを受け入れる社内風土や生活支援の仕組みがない企業では、せっかくの人材が能力を十分に発揮できない。単なる「雇用枠の拡大」ではなく、企業文化や組織風土を変える努力が必要である。

1.2 人材育成の遅れ

人材を採用できても、育成やスキルアップの仕組みが不十分で、短期間で離職してしまう事例が多い。特に中小企業は、OJTに依存し、従業員個人の能力(技術力やコミュニケーション力など)に依存しがちで、体系的な教育を整備できていない。

中小企業においては、教育投資を「コスト」と捉えがちだが、実際には従業員の満足度向上による離職率低下や業務効率化を通じて大きなリターンをもたらす「投資」である。例えば、デジタルスキルを持つ従業員が一人社内にいるだけで、業務フロー全体の改善が進み、属人化や二重管理といった慢性的な課題が解消されやすくなる。人材育成を戦略的に位置付けることが、人材不足時代の成長の鍵と言える。

1.3 業務の属人化

中小企業は、従業員数が限られるため、業務が個人に依存し、誰かが欠けると業務全体が停滞するリスクがある。例えば、ベテラン社員の経験や勘に依存して業務が暗黙知化している、新任者向けのマニュアルがなく引き継ぎに時間がかかる、システム化が遅れて情報が分散しているといったケースが挙げられる。

マニュアル整備や標準化の不足も、人材活用を妨げる要因となっている。診断士は、経営者に寄り添いながら長期的なビジョン策定を支援する立場にある。単なる「制度の紹介者」にとどまらず、経営戦略に沿ってIT導入や人材育成の優先順位を整理し、現場に定着させるまで伴走することが求められる。経営者が「人材活用」を一過性の課題ではなく、企業文化や組織戦略の中核に位置付けられるよう、診断士が橋渡し役を果たすことが不可欠である。

1.4 デジタル活用の不足

デジタル化の遅れにより、人手で対応すべき作業が多く残っている。特に小規模な企業では、目の前の仕事を優先させるため、デジタル化を後回しにする傾向が強い。結果として、いつまで経っても、基幹システムが未導入で、紙やExcelでの管理に依存しているケースが散見される。

2. 人材活用を通じた解決策

2.1 多様な人材の参画促進

経験豊富なシニア人材の再雇用、女性の柔軟な働き方支援、外国人材の活用など、多様な人材を受け入れる仕組みが必要である。たとえば、短時間勤務や在宅勤務制度を導入することで、子育て中の女性も就業しやすくなる。

2.2 教育・リスキリング支援

中小企業は、教育への投資に消極的になりがちだが、政府による助成金などの支援制度により、中小企業が人材を育成しやすい環境は整いつつある。例えば、厚生労働省の「人材開発支援助成金」により、事業主が従業員に職業訓練を行う際の費用や賃金を政府が助成している。また、教育訓練給付制度や経済産業省の「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」なども整備されており、低コストでデジタルスキル研修を実施できる。特にデジタルスキルの習得は、人材不足時代に大きな効果が期待できる。

2.3 デジタル技術の導入と業務効率化

デジタル技術やデータベースの活用の導入は、人材不足解消に直結する。

私は以前、中小企業の商社で社内SEとして従事していた。当社は15,000点以上の商品を扱っており、商品ごとのマスター情報(商品名、原産地、生産工場、原材料など)は400項目を超えていた。

しかし、当時の管理はAccessを利用していたため、容量制限から約1,000点しか登録できず、残りはバックアップファイルで分散管理されていた。さらに商品ごとの管理項目も50程度に限られ、残りの情報は各部署がExcelで独自管理する状態であり、いわゆる「二重管理」が常態化していた。商品情報の登録や出力も特定のPCと担当者に依存し、属人化が深刻であった。
 そこで私は、プロジェクトマネージャとして限られた人員と時間の中で、15,000点超の商品と約400項目の情報を一元管理できる商品管理システムの刷新を行った。これにより、データ重複や属人業務を解消し、全社的に業務負担を軽減。結果として人材活用の最大化に大きく貢献することができた。

2.4 外部リソースの活用

商工会議所や金融機関、専門家との連携を通じ、人材不足を補うことも可能である。中小企業庁が運営している「成長加速マッチングサービス」を活用することで、人材育成やIT導入のサポート、補助金申請など、ニーズに応じて認定された「支援パートナー」が見つかるため、効率的かつ戦略的な支援体制として注目されている。

3. 政策的支援の方向性

政府は「働き方改革」「デジタル化支援」「多様な人材の参画促進」を軸に、中小企業を支援している。具体的には、IT導入補助金によるデジタル化支援、人材開発支援助成金によるリスキリング支援、ものづくり補助金による省人化投資支援など、多様な施策が整備されている。診断士は、これらの制度を整理し、企業に適切な施策を提案・申請支援することで、実効性のある人材活用を実現できる。

4. 中小企業診断士としての支援の在り方

診断士が果たすべき役割は、単なる助言にとどまらない。経営分析を通じて課題を明らかにし、社長や経営幹部、従業員と情報を共有して認識を合わせながら、実行可能なプランを策定し、伴走支援を行うことが求められる。

特にIT分野に強みを持つ診断士は、以下の点で貢献できる。

  1. システム導入の伴走支援:適切なベンダー選定から現場定着まで。必要に応じてシステムの改修提案まで支援。
  2. データ活用の仕組みづくり:データベースやBIツールの導入を通じた経営判断支援。
  3. セキュリティ対応:中小企業のセキュリティ意識を高め、リスク対策を実践し、安心して活用できるデジタル環境を整備する。

私自身、ベンダー側でのシステム開発案件や発注側の社内SEを背景に、業務効率化とデータ管理を両立させた経験を持つ。こうした実績を活かし、中小企業が「少ない人材で最大の成果を上げる」仕組みづくりを支援していきたい。

結論

中小企業における人手不足は、賃金水準などによる採用難だけでなく、人材活用の仕組みの不備に起因するところも大きい。多様な人材の参画、教育とリスキリング、デジタル化、外部リソース活用を組み合わせることで、限られた人材を最大限に活かすことが可能となる。特にデジタル技術の導入は、業務の属人化を防ぎ、作業の効率化やデータを活用した経営判断精度の向上を実現する。

さらに、政策的支援や診断士の伴走支援が加わることで、個別企業に適した解決策を導き出すことができる。中小企業が持続的に成長していくためには、人材不足を前提とした経営変革が不可欠であり、その視点を踏まえた支援を行うことこそ、診断士の価値として求められる。


<参考文献>

・総務省統計局(2024)『労働力調査』、総務省統計局ホームページ
・中小企業庁(2024)『中小企業白書』、中小企業庁ホームページ
・厚生労働省(2025)『人材開発支援助成金』、厚生労働省ホームページ
・経済産業省(2024)『リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業』、経済産業省ホームページ
・中小企業庁(2025)『成長加速マッチングサービス』、中小企業庁ホームページ
・中小企業庁(2025)『IT導入補助金の概要』、中小企業庁ホームページ

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